コントラスト
従兄が隣に座っていると、車の室内はやたら狭く感じる。 と、彼は思った。これは昨晩にも思った事だ。 おそらく、この軽四の室内は体の小さな彼に適切な空間なのだ。 もう少しくらい身長が伸びて欲しかったが、それはそろそろ望めそうもない。 反対に従兄の体となると、少なくとも乗用車サイズでなければ比率が合わない。 もっと大きなものでも大丈夫だろう。それ程、従兄の身長は高い。うらやましい。 最近は車内の広さを売りにしている軽四もあるな。と彼はふと思い出した。 遅い朝、そして、まだ早い昼。 彼はそれに自分自身と従兄を代入した。どちらがどちら、という事は考えなかったが、何となく似ている様な、似ていない様な。おそらく自分が遅い朝だろう。 考えたがあまり意味が無い事だった。関連性が薄い。つまり、似ていない。 従兄の―つまり母方の―血がもう少し遺伝していたら、自分自身を嫌いにならずにいれただろうか、そんな事を彼は空想する。翼があれば、と言うのと同じだった。 ラジオの音が薄く充満している以外は何も無い空間。 年に一二回会う事があるかかどうかの二人である。会話の共通項も少ないので、二人とも特に取立てて話す事は無かった。 彼は言葉に困っていた。こう言った状況での沈黙はかなり堪える。お互い、それ程多くの会話が必要ではない事は分かるのだが、それでも何か言葉を発さなければならない、という強迫観念が余計に口を重くしていた。 一方、従兄が沈黙を気にしている様子は無かった。向こう側の窓を何の気も無しに眺めている従兄の横顔が彼の視線の端に見える。その横顔に映る仄かな陰がある。おそらく昨日のアルコールが気怠い気分にさせているからもあるのだろう。 それ以上に― 従兄を降ろす予定である駅に近付いた頃、彼は従兄に声を掛けた。 彼の中で二つ程引っかかる。 一つは、彼自身は失敗とは思っていない事だが、今のアクセントは従兄にはまだ慣れていない。 もう一つは、中途半端な調音だった。発声方法を躊躇ったためだ。普通では考えもしないそちらの方に、彼は苛立った。もう、こんな事は止めにしたい。 従兄は一瞬だけ息を呑んだが、直ぐに思考を変換した。彼が従兄を呼ぶ時、二通りの呼び方をする事に昨日気付いたのだ。このアクセントは今の従兄を認識してのものだった。 「…あの、」 「何だ」 少し冷たい声だと従兄は思ったが、これ...