顔の皮膚が剥がれ落ちている。 頬にくっついていられなくなった肉が、引力に従おうと、ナメクジの様に移動を始めている。 アンマスクド―気持ちの悪いこの感覚は、今でも慣れていない。 それでも、仕方無いと僕は思っている。 自分で火の中へ顔を突っ込んだ訳じゃ無いけれど、僕の顔は爛れていた。赤紫色のグロテスクな部分は元がどんな風だったのか忘れてしまった。 ベッドはいつも清潔で白い。 テーブルには何冊もの本が散らばり、乗りきらなかった本は床に堆く山を作っている。 壁にはカレンダーが貼ってある。少し大きめのサイズで、三百六十五日を見る事が出来る物だ。 たった一つの窓の外は、いつ見ても、灰色がかった空だった。 相変わらず僕は、時間の感覚がわからない。どうやら、時間の経過というものを測る事は出来無い頭になってしまったらしい。たくさんの時間が流れたはずだ。それはカレンダーに書き記した数字が物語っている。 この部屋に入れられた日を始めとして"今日"が第何日目なのか書いているのだ。"今日"が何日か忘れない為に、朝、目が覚めてベッドから出るとカレンダーの日付に斜線を入れる。 五千四百三十。 既に四桁も半ばまで来ている。けれども、鏡の向こうの、爛れていない部分は全く変わらずにいる。 カレンダーに斜線を入れる度に、空恐ろしさを感じる。 これは、一体何なのだろう。どういう事なのだろう。 それが、全く見えてこない。 頭は服用している薬でボロボロなのだろう。もともと、どの様な効果のあったものなのか、よくわからない。ただ、一日のルーティンとして投薬されている物だ。 実際には薬のせいかは判らない。単純に自分の頭が劣化しているだけかも知れない。 それもあり得る。頭など、使わなければ劣化する一方だ。 書き込まれた日数は増えている。それなのに、時間というものを感じられない。この顔も"変わらない"。 夢か、現実か、それすらも判断出来無い。 現実なんてものは、幾つもの幻想の中にある、不確かなものが土台になっているのだ。ゾウガメが延々と世界の土台になっている様に。 例えば、もし今、悪魔が目の前に現れて、 「残念だったね。光を見る事も能わなかった哀れな胎児」 と僕の世界―或いは僕の爛れてぶよぶよになった皮膚―を引き剥がしたとしても、きっとくすりと笑っ...