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舞宵夜

欠けた月が照らす夜 父の手に引かれて歩く坂道 仄かに灯る提灯は 風にゆらりゆら 酒の香りがする 右手を繋ぐ指先体温 見上げた父の顔は 袖で見えない 夜風はすっかり春めき 月の光もやさしい紗の様 誰もいない山の上の境内 桜はまだ咲き誇る日を 待ちわびて眠る 柏手打てない僕は何を願おう 縁側、月夜に片手酒 薄紅の花がまろく香る 盃に今宵の肴を映し、 過去を脳裏に映す 父よ、 俺も酒が飲めるようになった 皮肉なもんじゃないか― 目を伏せ昏く笑う …赦しておくれ 狛犬の足元に泣いた父の顔 子供は諦めに似た眼差しを向ける 願ったのは、 苦悩の種で在り続けるのなら この隻手の子を葬って欲しかった 弱いものは闇が浚ってゆく 現世の定律を識る片輪の少年は 絞首台に立ち宣告を受け入れる 風が悲しく鳴き叫び 魔が過ぎ去る 彼の手が顔に触れ 抱きすくめられる 体に伝わる嗚咽と懺悔 少年は境内に無垢を落とし 人形の様に虚を見上げた 俯いたままの父の顔には 幾筋もの涙の跡が残ったまま 手を引かれて歩く子は 鋭く感情を失くした表情で 泣き顔を見ていた 弦月は漆黒の奥へ沈み 春風が少年の頬を撫でた ごめんなさい… 父よ、 隻腕でも、それでも、何とか生きている 完全な自由とは言わないが、 少なくとも不自由では無い 心地良い風が天空を示す 目に触れる月と花は 今もなお輝く その気高き在り様に 俺は心を許し微笑む 冥き迷い世に乾杯 未だに酒に酔う事を知らず 過去と共に盃を空ける